2014年
4月
22日
火
これから、このサイトで、時々、私がかつて長年現場で携わってきた字幕翻訳の話をできればと思っています。今日はその第1回。
(1) 映画の日本タイトル:
日本タイトルは、各映画配給会社の主として宣伝部が、使っているエージェントさんからも何十となく候補を出してもらい、最終的にアメリカ本社のOKももらって決めます。ひとたび決まると、そのタイトルが映画の“顔”として、テレビ、雑誌、新聞、あらゆるメディアを駆け巡りますから、とても大切なものです。この予告編で仮につけたタイトル「イエス ―奇跡の生涯―」は私のオリジナル。もし20世紀フォックス社が採用したら、著作権料を頂きます(ジョーク!)。
(2) 劇中のセリフの日本語訳字幕:
字幕の日本語訳は、映画の登場人物がそれぞれのセリフをしゃべっている間に読み切れる長さで訳さなければなりません。これを「字数制限」と言います。人間の目に読み切れる字数は、平均して1秒間に4文字です。ですから、例えば2秒で話し終えたセリフの字幕字数は、4字×2秒=8字となります。
ところが一方、映画でしゃべって耳に入るセリフを、目で読む活字に置き換えると、耳と目では情報量が違うので、全情報量の3分の1まで減ってしまいます。そこで字幕翻訳者は、まず正確な訳を確認した後、個々のセリフを;
① 凝縮(余分な言葉を省略して、全体を縮める。)
② 言い換え(意味を変えないで、簡潔な4字熟語などに言い換える。)
③ 取捨選択(1つのセリフが複数の文章だったり、長い文章だったりのときは、本筋に関係のない部分は切り捨てて、ストーリーに関係のあるコアの部分を取り出して訳す。)
などの作業をしながら、訳していきます。
では、この予告編の各セリフを、原文、文字数に関係ない直訳(小説などの訳)、⇒字幕訳の順で比較しながら見てみましょう。(英語が不得手な方も、日本語を比較すれば、違いは十分分かります。)
当然ですが、まだこの予告編をご覧になっていない方は、ご覧になってからお読みください。
Do you need help?
助けが要るかね?
⇒助けを?
There's nothing to help with.
助けてもらうことは何もない。
⇒要らない
What are you doing?
何をしているんだ?
⇒何してる?
Going Fishing.
漁に行こうとしてる。
⇒漁に行く
Im telling you, there's no fish out there.
言っとくけど、あそこで魚は獲れないぜ。
⇒今日は獲れない
How did this happen?
どうやってこんなことが起こったんだ?
⇒なんでだ?
Come with Me.
私と一緒に来なさい。
⇒ついてきなさい
What are we gonna do?
俺たちは何をするんだ?
⇒何をする?
Change the world.
世界を変える(⇒これは同じ)
Your sins are forgiven, My son.
あなたの罪は赦された、我が子よ。
⇒子よ 罪は赦された
I thought only God could do that.
神だけができると思っていた。
⇒神にしかできん
Which is easier, to say his sins are forgiven
どっちがたやすいと思う? 「彼の罪は赦された」と言うのと、
⇒言いやすいのは“罪は赦された”か?
or say get up and walk?
「置きて歩きなさい」と言うのとでは?
⇒“起きて歩け”か?
I've had reports of a young Prophet of Nazareth.
ナザレの若い預言者についての報告書を手にした。
⇒ナザレの若い預言者の話を聞いた
It's rumored that He works miracles.
彼は奇跡を行うという噂がある。
⇒奇跡を行うそうな
They all do.
彼らはみんな行う(=行うと口では言う)。
⇒口先だけだ
Blessed are the pure in heart
心の清い者は幸いです。
⇒心の清い者は幸いだ
for they shall see God.
なぜなら彼らは神を見るからです。
⇒神を見るから
Pray to Him and He will listen.
神に祈りなさい。そうすれば神は聴いてくださる。
⇒神に祈れ 聴かれてる
5000 came to see Him! 5000!
5000人が彼を見に来た! 5000人だ!
⇒5000人も彼を見に来た!
Your hunger for righteousness- will be filled-
あなた方の義に対する飢え渇きは満たされる。
⇒義に飢え渇く者は満たしてあげる―
through Me.
私を通して。
⇒この私が
Who knows what Pilate will do if the crowds run out of control.
群衆が統制を失ったら、ピラトが何をするかなど、誰が分かる?
⇒群衆が騒いだらピラトは何をするか
The man, Judas, he wants to help us.
あのユダという男。彼が我々を助けたがってる。
⇒ユダが手を貸すと
I'll crush any rebellions.
私はどんな暴動でも踏みつぶす。
⇒暴動はつぶす!
Save us from the Romans, Lord!
我々をローマ帝国から救ってくれ、主よ!
⇒ローマから救ってくれ!
There's something unusual about Him.
彼については、何か普通でないところがある。
⇒人間離れしてる…
We must arrest this false Prophet.
我々はこの偽預言者を逮捕しなければならない。
⇒偽預言者は逮捕…
But what if He is who they say He is?
だが、もし彼が、彼らが言うとおりの男だったどうなる?
⇒噂どおりの男なら?
Peter, come.
ペテロ 来なさい。(⇒これは同じ!)
One of you here will betray Me to My enemies.
ここにいる者の一人が、私を敵に売るだろう。
⇒この中の一人が私を敵の手に渡す
Jesus of Nazareth.
ナザレのイエス(⇒これも同じ!)
You are charged with blasphemy.
あなたは瀆神罪で告訴されている。
⇒瀆神罪ですぞ
He has employed demons to heal.
彼は、癒やすのにサタンを使役している。
⇒サタンの力で癒やしてる
He threatened to destroy the Temple.
彼は「神殿を壊すぞ」と脅した。
⇒神殿を壊すと言ったぞ
Tell us.
言ってくれ。
⇒申せ
Are you the Son of God?
お前は神の子なのか?(⇒同じ)
I am.
そうです。(⇒これも)
Blasphemer!
冒涜者だ!
⇒冒涜だ!
I am coming soon.(⇒同じ)
いかがですか? 予告編は、セルフ数も高々40ですが、本編になると、一作品およそ1,200~1,500です。字幕翻訳者は、その全てについて、この作業を繰り返すのです。「字幕翻訳」とは、極めて特殊な”職人芸”の世界であることが、お分かりいただけるでしょうか?