◆ある手紙◆

【訳者より】FBフレンドのサリーさんが、またいいお話を見つけてくれました。今回はちょっと長めです。それぞれの読み方でお楽しみになればいいと思いますが、動画の絵もBGMのピアノもいいのでいいので、例えば1回目は、想像力を巡らせながら日本語訳を読み、2回目は映像を見ながらもう一度読むというのもいいかもしれません。(日本語訳は、映像の文章の切れ目とマッチさせてあります。)

 

―ある手紙―

 

男は落とし物の財布の中に

最も痛ましい失恋の手紙を見つけたが、

それがこんな結果になるとは

夢想だにしなかった…

 

ある凍えるように寒い日、帰宅途中の私は路上に落ちていた財布につまずいた。

私はそれを拾い上げ、持ち主に返すための何か手掛かりがないかと中をのぞいた。

だが財布にはたったの3ドルと、

何年も入っていたらしい、しわくちゃの手紙しかなかった。

封筒は擦り切れ、かろうじて読み取れるのは、差出人の住所だけだった。

私は何かカギになるものはないかと、中の手紙を取り出した。

それはもう60年も前に書かれたものだった。

それは“マイケル”という男性に宛てて書いた別れの手紙だった。

差出人の女性は、彼との交際を母に禁じられたというのだ。

それは悲しくも、美しい手紙だった。

そして「変わらずあなたを愛しています」という言葉で終わり、“ハナ”の名で結ばれていた。

読み終えても、彼の名前の他、受取人の手掛かりはいまだになかった。

たぶん“104”を呼べば、電話オペレーターが差出人の住所に登録された電話番号を教えてくれるかもしれない。

オペレーターは、「電話はありましたが、お知らせできません」と言った。

でも、彼女が直接電話して、相手の人が同意したら、つないでくれるという。

数分後、私はハナを知っているというある女性と話すことができた。

彼女は、その家を、ハナという娘を持つ家族から買ったのだそうだ。

でもそれは30年も前の話だった!

彼女は、数年前、ハナは母を近所の老人ホームに入れなければならなかったと言った。

私は老人ホームに電話し、ハナの母はもうすでに他界したと聞かされた。

でも彼らは、ハナの連絡先の電話番号を知っていた。

彼女自身も老人ホームの住人だという。

私はふと、こんなに身を入れるだけのいい結果になるのかな、と考え始めていた。

わずか3ドルと、60年前の手紙じゃないか。

それでも私は、ハナが住んでいると思われる家に電話した。

電話に出た男性が言った。

「ええ、ハナは私たちと一緒に住んでいます。」

私の胸は少しばかり高鳴った。

「ちょっと彼女に会いにお寄りしてもいいですか?」

彼はためらいがちにこう答えた。「どうしてもそうしたいなら…。」

「たぶん娯楽室でテレビを見ていますよ。」

私は老人ホームに車を走らせようと決心した。

守衛と看護師が3階に案内してくれ、私をハナに紹介した。

彼女はかわいらしくて、温かな微笑みをたたえた銀髪の女性だった。

私は彼女に財布を見つけたことを話し、その手紙を見せた。

封筒を見た時、彼女は深く息を吸ってこう言った。

「彼のこと、とても愛してました。」

「でも私はまだ16歳、母は“若すぎる”と思ったのです。」

「これは私がマイケルに最後に出した手紙です。」

「マイケル・ゴールドスタインはすばらしい人でした。」と彼女は続けた。

「もし彼が見つかったら、いつも彼のことを思ってると伝えてください。」

「ああ、彼はほんとにハンサムだったわ。」

彼女は一瞬ためらったあと、

「そして今も愛していますと伝えてくれます?」と。

彼女は目いっぱいにこみ上げてくる涙の中で、微笑みを絶やさなかった。

「私、生涯結婚しませんでしたの。」

「たぶんマイケルほどの人が現れなかったのね。」

私はハナに礼を言い、別れを告げた。

出口のところで守衛が私を呼び止めて、「あの老婦人は何かお役に立ちましたか?」と聞いた。

「少なくとも彼の名字は分かったよ」と私は答えた。

「でも、しばらくはこのままにしておこうと思うんだ。」

「ほとんど丸一日をかけて、この財布の持ち主を探そうとしてたんだがね。」

そう言いながら取り出した財布は、茶色の一枚革で、赤色の裏張りがしてあった。

それを見た守衛は言った。

「おい、待ってくれ。それはゴールドスタインさんの財布だよ!」

「その赤い裏張りでどこにあってもすぐ分かる。彼はしょっちゅう、そいつを置き忘れるんだよ。」

「ゴールドスタインさんって誰?」

私は少し手が震えてくるのを覚えながら聞いた。

「マイク・ゴールドスタイン。ここの8階にいるよ。これは間違いなく彼の財布だ。」と彼は答えた。

私は看護師室に走って取って返すと、彼女に守衛が言ったことを告げた。

私たちはエレベーターのところに戻り、飛び乗った。

私は「ゴールドスタインさんが起きてますように」と祈った。

8階に行くと、その階の看護師が言った。

「彼はまだ娯楽室にいると思うわ。読書が大好きなの。すてきなお年寄りよ。」

部屋に行くと、一人の男性が本を読んでいた。

看護師は彼のところに行って、財布を無くさなかったかと尋ねた。

ゴールドスタインさんは驚いたように目を上げた。

手を後ろポケットにやって、「あ、なくなってる!」

「この親切な方が財布を見つけたの。」

「それで、ひょっとしてあなたのものじゃないかと思って。」と看護師は彼に言った。

私はゴールドスタインさんに財布を手渡し、彼は安どの微笑みを漏らした。

「ええ、これです! 今日の午後に、ポケットから落ちたに違いない。何かお礼がしたいんだが。」

「結構です」と私は言った。

「でもお伝えしたいことがあるんです。」

「財布の持ち主を見つけ出そうと思って、中の手紙を読みました。」

彼の顔から微笑みが消えた。「あの手紙を読んだのかね?」

「読んだだけではなく、ハナの居場所が分かったんです。」と私。

彼の顔はたちまち蒼白になった。

「ハナだって? 彼女の居場所を知ってるのか? 彼女はどうしてる? 昔のようにきれいだったか?」

「どうか、どうか、話してくれ」と彼は懇願した。

「元気ですよ。あなたが知っていた頃そのままにきれいです。」私は優しく答えた。

老人は微笑みながら訪ねた。「どこにいるのか教えてくれないか? 電話をしたいんだ。」

彼はちょっと間をおいてから、こう言った。「お若い方、ちょっと聞いておくれ。」

「私が彼女と熱烈な恋に落ちていた時、この手紙をもらったんだ。」

「私の人生は終わった。私は生涯結婚しなかった。ずっと彼女を愛し続けていたからね。」

「ゴールドスタインさん」、私は言った、「僕と一緒に来てください!」

私たちはエレベーターに乗り、3階に降りた。

そして娯楽室に歩いていくと、ハナが一人で座り、テレビを見ていた。

看護師が彼女に近づいた。

「ハナさん」、彼女はマイケルを指さしながら、優しく言った。「この方をご存じ?」

ハナは見上げ、一瞬目を見開いたが、一言もしゃべらなかった。

マイケルは優しく、ほとんどささやくようにこう言った。

「ハナ、マイケルだよ。私のこと、覚えてるかい?」

彼女はあえぐようにこう言った。「マイケル! 信じられない! マイケル! あなたなの?! 私のマイケル!」

彼はゆっくりと彼女のほうに歩いていき、二人は抱き合った。

看護師と私は、顔に涙を伝わせながら、部屋を後にした。

彼女は言った。「これが良き主のなさる業よね! そうあるべきことは、そうしてくださるのよ。」

それから3週間後、老人ホームから私に電話があった。

「日曜日に結婚式があるんです。参列していただけますか?」

「マイケルとハナが結婚するんです!」

それは、老人ホームの住人全てが参列した、すばらしい結婚式だった。

ハナとマイケルは、本当に美しく、幸せそうだった。

そして私は、二人の介添え人だった。

76歳の花嫁と、79歳の花婿は、ついにお互いを見いだしたのだ。

 

“時”は、待つ人にとっては、とても緩慢だ。

怖さの中にある人には、とても速い。

嘆きの中にある人には、とても長い。

お祝い気分の人には、とても短い。

 

だが、愛し合う人にとっては、時は永遠なのだ。

~ウィリアム・シェイクスピア~

 

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